妻は精神病 31

車を走らせて病院へ向かう。

…詩織疲れちゃったか?

「…ぅうん。

…今日、区役所に行ったでしょう?係の人に何回も同じ説明してもらったのにわからなくて…こいつ本当に障害者だなみたいな顔されて…

あと、優菜のもらってきたプリントで2年生になっても使うノートがあるので取っておいて下さい。って書いてあったのに、そのノートがいくら探しても無くて無くて…

学校に電話したら、先生は会議中で後から連絡しますって言うから待ってたけど、連絡来ないのが気になって気になって、2時間あと位にまた電話しちゃったり…

結局先生がみんなに渡し忘れてたみたいで、『すみません』みたいに言われたんだけど…
一昨日も家の中が気になって気になって、『あぁ、あれあるだろうか?これあるだろうか?』ってずっと探しちゃうし…

何でかわからないけど不安で不安で怖くなってしまって…」

あぁ、そうか。
…そうか。

(最近色々出掛け過ぎて疲れてしまったかな…)と思った。

まぁ、まずは病院で話を聞いてもらおう?

「…うん。」

あ、俺は車で待っているか?それとも一緒に行くか?

「…ついてきて欲しい。」

お、わかったよ。

――――――――――――――――――――――

―15分程で病院へ着いた。

足取りの重い詩織の手を引いて3階のデイケアルームへ行った。

「あ…ようこそ、こちらへどうぞ。」

あ!いつも妻がお世話になっております。

「うちの旦那さんです。こちら今私の担当の江藤さん。」

ガタイの良い、だけど顔と声の優しい多分40歳前の男性だ。

「掛けて下さい。」

あ、どうも。

「…詩織ちゃん。今日はどうしたんだい?」

優しい口調で江藤さんが話を始めた。

…詩織は車の中で私に話した内容を、どうすれば良いかわからないと言った感じで伝えていた。

私は特に何もせず、岩の様に隣で座っていた。

江藤さんはあまり上手とは言えない詩織の話を一字一句漏らさないようにゆっくり、そしてしっかりとうなずき、聞いてくれる。

話し終わったところで詩織はまたポロポロと泣き出した。

「…うん。そうか。色々気になりだしたのはいつ位から?」

グス…
「…先週の金曜日くらい…」

「そうか…函館…行ったんだよね。楽しかった?」

…コクンと詩織がうなずく。

「水曜日は友達と遊びに行ったんだよね?

そこは?…楽しかった?

友達が羨ましいとか無かったかい?」

「…楽しかった…羨ましいとかは無かった…全然タイプの違う友達だから…」

「…本当?」

シツコイ。と思った。

「…本当です。旦那さんも知っている友達だから。ねぇ?…」

あぁ、うん。

「そうか…そしたらあれだね。」

と江藤さんは静かに話し始めた。

「詩織ちゃんはもう以前と比べて一段階良くなってきてるんだ。それは先生からも聞いているよね。

ここが曲者で、良くなってきているときって前の元気な時の自分と錯覚してしまうんだ。

だけど、まだ体力が回復するには時間がかかるんだよ。

《心の疲れ》がね。

以前《体の疲れ》と《心の疲れ》があるのは話しをしたよね。

《体の疲れ》は休めばいくらか回復するけれども、《心の疲れ》はなかなか回復しずらいんだよ。

コップの水の話を覚えている?

心のコップの中に『ストレス』という名前のビールを注ぐ。どんどん注いでいくとビールは溢れてしまうよね。するといつまでたっても《心の疲れ》って取れないんだよ。

だから、詩織ちゃんはそのコップを大きくしてる段階なんだ。

だけど、コップを大きくするのが大変なんだ。

だから、焦らず、時間を掛けて、ゆっくり治していくんだよ。

…旦那さん家は汚いんですか?」

いいえ。と私は答えた。

「…詩織ちゃんが遊びに行って気に障りますか?」

いいえ。とまた私は答える。

「…ほら、旦那さん良く見ててくれているよ。大丈夫だから。

まず、今自分の治療段階をもう一度見つめ直してごらん。
後、時間はかかるんだから焦らないで、上手く付き合う事を考えようか?」

「…はい。」

詩織の顔からは不安気な表情は消えていた。

オォ!さすが!

「…旦那さんから何かないですか?」

いきなりかよ!

…えぇ…そうですね。

私は妻の病気を治す為に出来る事は『環境を整える事』だと思っています。

以前は全て自分の力で治してやるんだ!

と思っていましたが、それは難しい事に気が付きました。

だから私は逆に、妻がまた寝込んだ生活になっても、それはそれでいいと思っています。

治る事を望むのではなくて、少しでも上手く付き合えればと考えています。

ほっておいても本人が治りたいと思っている様子ですから!

江藤さんは

「いい旦那さんだね。」

と微笑んでくれた。

――――――――――――――――――――――

…帰りの車中。

ほんの少し元気になった詩織が隣にいた。

「…いつもごめんね。」

と詩織が言った。

子供たちにアイスでも買って帰ろうか。

と言った。

…か詩織は少し嬉しそうにうなずいた。

――――――――――――――――――――――

仕事中に詩織にメールしてみる。

《調子はどうだ?》

詩織《まだ、気になり虫が消えてくれないんだなぁ。私は困ったちゃんだね~(・_*)\ペチ
頑張って乗り越えます!》

《『気になり虫』って名前いいね

『気になり虫・タダシ』にしよう。

タダシ今日は大人しいよ!とか。》

…家に帰って聞いた。

今日は『タダシ』どうだった?

「ん?またねぇ、少し暴れて床の掃除一時間半もしちゃった!」

…困ったタダシだね。(o^-^o)

そんな最近の詩織。

続く

スポンサーリンク
スポンサーリンク

コメント

  1. よりこ より:

    心が通い合って行く姿が伝わってきます。

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA